設立趣意書

 

 1.    趣旨

我が国でも重症呼吸・循環不全に対する集学的治療の進歩は著しく、大動脈バルーンポンピング(IABP)、Extracorporeal Membrane Oxygenator (ECMO)、補助人工心臓(VAD[経皮的補助人工心臓(IMPELLA)を含む]などの機械的循環補助を含む集学的治療の、救命率や治療後の予後・QOLは著しく向上しました。しかし、このような治療は大都市に限定され、それらの地域以外の重症呼吸・循環不全患者は、高度な専門的治療を受けられないのが、我が国の現状です。特に小児の重症呼吸・循環不全患者において、これらの集学的治療を受けられるのは、さらにごく一部の大都市に限られています。また、新型コロナウイルス感染症の蔓延を経験し、現状のままでは、新興ウイルス感染症が地域で感染拡大するとその地域の医療崩壊を招くことも明らかになりました。

このような現状で、重症呼吸・循環不全患者が国内で公平に医療を受けるためには、人工呼吸器や上述のECMOをはじめとする機械的循環補助を装着した患者を、地域から高度医療施設に空路で搬送するための医療技術を開発するとともに、広域医療搬送を可能にするようなネットワークを構築することが、喫緊の課題と思います。また、引き続いて医療が必要な場合には、紹介元へのback transferまで考えたネットワークを作ることが、患者と家族のQOLを考慮した治療体系であると考えます。

そこでこのたび、重症患者の迅速な搬送・治療に繋げる「救命のための予防線」となるような日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(Japan Critical Care Jet Network:略称JCCN)の設立が必須と考えられます。

我が国においてJCCNを設立し、運用していくためには、後述するような様々な事業を行う必要がありますが、このような事業を多彩な関係各所と連携して推進できるような法人・団体は国内に存在しません。

目的とするネットワークの設立を推進するには、法整備、国土交通・医療制度の整備、財源確保、搬送適用患者の基準策定、医療用ジェット機による患者搬送の運用までの多岐にわたる分野を統合して活動していく必要がありますので、任意団体や単独の学術団体などではとても遂行できない事業と考えます。つまり、重症患者の治療に関わる医療界関係者が中心になって、法曹界、行政、運航事業者と連携できるような特定非営利活動法人の設立が必要と考えました。

そこで、国内全域で、地域の医療機関では提供できない高度・専門的医療を必要とする人に対し、固定翼機を活用し、医師を含む医療チームによる継続的医療のもと、高度・専門医療機関へ計画的に搬送するための重症患者固定翼機搬送体制を確立し、運営体制の整備を行い、国民医療の問題解決と救命率向上に寄与するという社会的使命を達成することを目的として、以下の7つの事業を行う特定非営利活動法人を設立します。

 

(1)   固定翼機を用いた、超重症患者搬送、集中治療継続患者後方搬送、災害時患者搬送、帰省搬送、臓器移植時の患者・臓器の搬送を円滑にするための病院・医療機関のネットワークの組成

(2)   固定翼機による患者搬送に関する法的枠組みの研究と推進

(3)   病院・医療機関、固定翼機運航者、資金給付者の間の合意形成による医療用固定翼機の利用促進

(4)   医療用固定翼機及び関連施設の仕様・装備、運航等の実用化基準の作成

(5)   前項の基準を利用した医療用固定翼機による患者搬送の取り扱い基準の作成

(6)   救命救急活動業務

(7)   重症患者搬送に関わる医療チームの仲介及び教育研修

 

2.申請に至るまでの経緯

国内では、『北海道の新たな医療再生計画』の中で、2010年度に実施された国内初の医療優先固定翼機による1か月間の運航を緒とし、3年間の患者搬送運航事業が実施されています。しかし、その他の地域では、我が国の人工呼吸器や機械的循環補助を装着した重症患者の広域医療搬送についてのガイドライン等は未整備であるため、重症患者の搬送が必要となった場合に、搬送元や搬送先での自主的な取り決めにて実施されてきました。2020年頃から重症患者の広域医療搬送に関わってきた医療者が上記趣旨のもと幅広い活動を続け、20222月に関係学会・団体が連携して日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク(Japan Critical Care wing Network: JCCN)準備委員会が発足しました。同年6月にJCCN委員会を発足し、特定非営利活動促進法に基づく法人格を取得することにより現在の活動基盤をさらに充実させるため、検討を進め、法人化問題に関する本格的な検討に着手し、特定非営利活動法人化の申請に向け、定款や事業計画等の準備を開始することを決定いたしました。さらに、同年7月には設立準備委員会を発足するとともに、特定非営利活動法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク設立を決議し、今次の申請に至ったものです。

 

令和4714

 

特定非営利活動法人日本重症患者ジェット機搬送ネットワーク

 

設立代表者               福 嶌  敎 偉